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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)269号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人提出の上告趣意書は「私ハ昭和二十年マデ土工ヲ致シテ居リマシタ私ハ梅毒神經痛デ子供ノ時ヨリ苦労致シマシタ私ハ此ノ犯罪ヲ致シマシタノモ本當ニ金ガ欲シカッタノデアリマスデモ私ハ強盗致シテ金ヲ儲ケル氣持ハ有リマセンガ私ハ桧山郡泊村字五里沢温泉ニ病氣デ居ル時ニ中沢蔦子ト言フ人ト知合ニ成リマシタ蔦子ノ父母様ニオ願致シテ私ノ妻ト致シマシタ私ハ幸福ナ氣持デ商賣デモ致シテ金ヲタクサンモウケテ妻ヲ幸福ニ致ス氣持ヲ強クモッテ品物ヲ賣リナガラ二人デ幸福ニ暮シテ居ル時ニ私ハ梅毒ト言フ病氣ニ成リ又妻ニモウツリマシタノデ父母様達ノ所ニハ氣ノ毒デ居ラレナイノデ病氣ヲ治ス又金ヲタクサンモウケテ親ノ前ニ來テ暮スツモリデ旅ニ出マシタ其レデ炭山ヤ鑛山ニ働キニ行キマシタガ朝鮮人ハ使用出來ナイト言フノデ致方ナク私ハ妻ヲ連レテ紋別郡雄武村字栄町江原道夫ト言フ人ノ所ニ妻ヲ置イテ又商賣致スツモリデ居リマシタ私モ妻モ病氣ノ方ハ大分惡クナリ歩クコトモ出來ナクナリマシタノデス私ハ其ノ時金ハ一銭モ無カッタノデ有リマス其レデ私ハ自分ノ着物デモ賣ッテ商賣ノ元金ヲツクリ旭川ヘ行キマシタガ旭川デ吉野ト言フ人ニ知合ニ成リマシテ色々ノ話ヲキキマスト私ハ其ノ時金ガホシカッタノデ吉野ノ言フ事ヲキキマシタガ今ニ成ッテ見ルト強盗ニ成リマシタガ強盗傷人ト言フ事ハ私ハワカリマセン私ハ強盗ハ致シマシタガ傷人ハ致シマセン私ノ體モハッキリ致シマセン妻モ私ノタメニ面會ニ來ル事モ出來ナク成リマシタ私ハ此レデ真面目ナ人間ニ成ッテ私ノタメニ不幸ニ成リマシタ妻ヲ幸福ニ致シテヤル氣持ヲ強ク持ッテ刑務所ニ務メマスカラ裁判長樣御寛大ナル御處分ヲ御願致シマス」と謂うのである。

被告人が金南述外三名と共に判示第二〇(二)記載の佐藤勝夫方で強盗をしようとした際、現実に右佐藤勝夫に對し日本刀で斬りつけて切創を負わせた者が被告人でないことは、原判決認定の事実により明白なところであるが、刑法第二百四十條前段の強盗傷人罪は所謂結果犯の一種であって、即ち強盗が數名の共謀に基づく場合たまたまその數名中の一名が暴行の結果傷害の結果を発生せしめた場合でも、強盗を共謀した者の全員が強盗傷人罪の責を免かれないものと解するのが相當である。而して判示佐藤勝夫に對し暴行脅迫を加えて金品を強取しようといふことが、被告人と金南述外四名との共謀に基づくものであることは原判決の確定した事実であるから、被告人は佐藤勝夫に對し傷害の結果を発生せしめた実際の行爲者でないとしても、到底強盗傷人罪の責を免がれる譯にはゆかない。次に被告人は寛大な處分にして欲しいと述べているけれども、このような理由は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十三條第二項により、適當な上告理由とならないのである。被告人の論旨はすべて理由がない。

辯護人本吉加岐磐提出の上告趣意書第一點は「被告人に對する昭和二十二年九月二十三日札幌高等裁判所で開廷された公判は法律に從って裁判所を構成してゐないものであります同日の公判調書は裁判長伏見正保判事黒田俊一同西田賢次郎裁判所書記小幡正一の各氏列席檢事伊藤勝氏立會辯護人園田国彦氏出頭の上被告人の公判が開廷れさた旨記載されてあります(五三七丁)然し同検察廳には「伊藤勝」といふ檢事は任官されて居りません同年九月三十日の公判期日(判決言渡)に検事伊東勝氏の立會して居ること同判決書に檢事伊東勝關與の上審理した旨の記載あることによって伊東勝が伊藤勝氏であり「藤」と「東」の誤であったかも知れませんが證明されない許でなく公判期日に於ける手續は公判調書によってのみ證明されるものであれば被告人に對する昭和二十二年九月二十三日の原審第一回公判は法律に從って裁判所を構成してゐないことは前記公判調書によって明である以上原審判決は刑事訴訟法第四百十條一に該當するもので破毀さるべきものであります」と謂うにある。

原審第一回公判調書を看るに、檢事伊藤勝立會と記載されてあること論旨主張の通りである。然し原審第一回公判の行われた昭和二十二年九月二十三日當時、札幌高等検察廳には検事伊東勝が在職したが、伊藤勝なる検事は在職しなかったこと、當時全国の検察廳に在職した檢事で伊東勝は右の一名であり、伊藤勝という検事は一名も居なかったことはいづれも公知の事実であり、原審第二回公判調書には檢事伊東勝(而して一旦伊藤と書いた上、伊東と訂正してある)立會と記載され、判決書にも檢事伊東勝關與の上云々と記載されているから、原審第一回公判調書に檢事伊藤勝立會とあるのは、同伊東勝の誤記であること極めて明白である。從って原審第一回公判廷は裁判長判事伏見正保外判事二名及び裁判所書記小幡正一列席の上、檢事伊東勝立會の下に開かれたこと、即ち論旨謂うところの刑事訴訟法第四百十條第一號の判決裁判所としての構成に何等缺けるところがなかったことは明確である。論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の次第であるから、刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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